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【労働審判】昔ブラック企業と一人で戦った話【民事】

2018年11月27日

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僕は今年41歳になろうというのにうっかりブラック企業に入ってしまい先日辞めました。
これがまた愚かなことに人生にして二度目のブラック企業。一度目のブラック企業で働いて辞めるという際には戦ったのですが、今回は特に戦うこともなく後腐れなく辞めました。なぜなら一度目にブラック企業と戦った結果、戦った意味は大してなかったなと思ったからでした。

現在僕は有給消化の身で時間もあるので、そのブラック企業と戦った時の話をしてみようと思います。

日頃ブラック企業に虐げられていてなんらか対抗したいと思っていてこの記事を読んでくれている人のために先に言っておきます。その会社を辞めるつもりでいるとして、さらに弁護士を立てるほどの案件にならないのであれば一人で戦うメリットは恐らくありません。僕は少しの正義感、好奇心と意地のためにやってみましたが、結局やってもやらなくても自分に得はない、もしくは時間がかかったことで就職が先延ばしになったことや精神的な負担になった分損をしたような気もします。まぁ、それもこれもやってみたからわかったんですけどね。とは言え本来ならば社会を形成する一員として不正行為には声を上げるべきなんです。でも日本では労働者の立場はとても弱いですし、実際声を上げたところでよっぽど酷い案件以外だれも助けてくれないし、そもそも社会自体に経営者の不正を正そうとする意識と制度がまだまだ足りないのが現状です。
これから何か事を起こそうと思うなら、自分にとってメリットがあるかどうかよく見極めて行動すると良いと思います。そして僕の経験が同じような境遇にいる人の参考になれば、と思います。

 

そもそもブラック企業だと薄々気づいていた

その昔僕が入社したその会社の労働条件はぱっと見で労働基準法を下回るものでした。
その会社、A社(としましょう)に入社する以前僕は一年オーストラリアで英語を学び戻ってきたばかりで、それ以前にやっていたプログラマーという仕事と学んだ英語を生かした仕事を探していました。一応いい年してオーストラリアまで行って勉強してきたのだからちゃんと勉強したという証明が必要だと思い、なんとかTOEICは835点、英検準1級を取り職を探しましたが、当時はリーマンショク直後でそもそも求人が少なく、プログラマーと英語というスキル両方を使った仕事どころか、そもそも英語にまつわる仕事すらありませんでした。英語というものは日常的に使う環境に身を置いていないとなかなかレベルをキープすることが難しいと感じていたので、とにかく英語を使う仕事にこだわって探していました。しかし30歳を超えていた当時で、景気もよくないとなればTOEICや英検にはさほど意味はなく未経験で採用してもらえるほど世の中甘くはありませんでした。それでも英語から離れた生活をするわけにはいかないと思い、某英会話スクールのアルバイトすら応募しましたがそれすら落とされるという有様。途方に暮れていたそんな時拾ってくれたのがそのA社でした。
仕事は貿易事務、取引先は中国やインドだということですが必要な言語は英語とあったので内定をもらった時点で行くことにきました。ただ月給に「残業代を含む」と書かれていた時点でまともな残業代は一切出ないであろうことは覚悟していました。

今から思えば明らかに”法を守っていませんよ”と堂々と求人に書いてしまうような会社が、その他の部分でもまともなはずがありません。実際事ある毎に誰かが社長から怒鳴られる等のパワハラが日常的に横行していたり、有給休暇などは事実上存在しなかったり、無茶な深夜労働をさせられたり、タイムカードは残業していても定時で打たなければならないなど強制労働所かな?と思うくらい色々ありましたが、少なくとも英語を使って仕事をしていたという経歴が何よりも必要だと感じていたので頑張ってその会社で働きました。

そして入社から一年と少しくらいたったある日、時計は夜10時を回った頃でした。パソコンに向かって作業をしていた僕は社長から呼び出されました。社長室に入ると社長から就業規則と印刷された紙の束を渡され、「読んでわからないことがあったら聞いてくれ、別に今までと何も変わらないけどな。理解したらここにサインしてくれ」と言われました。中に目を通すとそこにはちゃんと労働基準法に則った内容の就業規則が書かれていました。しかし、わからないことがあったら聞いてくれ、と言われたものの、正直わからないことだらけでした。なぜならその就業規則通りになるとするならば、僕の給料は大幅に上がってしまうからです。確かにその時期は辞めた事務員から訴えられたという噂があったので、それで痛い目を見て労働条件の見直しを急遽行った…とも考えられないことはなかったですが、織田信長のような社長の性格からして(イメージです)そんなことは万が一にもないだろうと思いました。連日の長時間労働に疲れていた僕は特に考えることなく言われたとおりに「わからないこと、不明な部分」を聞くことにしました。冷静に考えれば、就業規則なんか労基署に出すためだけの見せかけのもので、本来であれば僕はわかったフリもしくはバカなフリをして言われるままにサインをする場面だったのですが、なんせ疲れていたので判断が鈍っていました。

「この深夜残業と書いてある部分なんですが、例えばこれからは今のように22時の超えた労働は割増賃金になるということなんでしょうか?」

「土日出勤も割増になるということなのでしょうか?」

「早朝出勤の場合に手当が出ると書いてあるのですが、私の場合毎日いただけるのでしょうか?(僕は他の社員よりも1時間朝早く来るようにいわれていたため)」

そんな質問をしたような覚えがあります。そして社長は自分から質問しろと言ってきたくせにどの質問にも少し黙っては、「今までと何も変わらん」と答えました。僕は「はぁ…」とは返すものの、その時は全く意味がわからず、とりあえず疑問に思ったことを聞き続けたんですが、何を聞いても「何も変わらん」の一点張り。挙句「条件は何も変わらないから、読んだらさっさとサインしろ」と紙を突き付けてくるのでした。なんだか押し売りの営業に謎の契約書にサインを迫られているような気分になってきました。僕って家が自営業だったこともあって、父親や母親からわけのわからない書類にサインしたりハンコを押してはしてはいけません、って小さいころから言われてたんですよね。

ワンマン社長で超怖い人だったので普段はヘコヘコしていたんですが、とにかく社長が何を言っているのか意味がわからないということに加え疲れもあって段々イライライしてきまして、結局小さい頃の両親の教えだけが僕の口から出ることになりました。

「わからなかったら質問しろ、って言われたので質問させてもらいましたが、回答の意味がわからないんでサインできないです。よくわからない書類にサインするな、って小さい頃から親に言われてますし」

と、普段から考えたらアウト過ぎるセリフを平然と言ってしまったんですが、織田信長レベルで短気な社長の返答はこうでした。

「じゃあ、お前クビだ。明日から来なくていい」

え…。2秒くらい意味がわかりませんでした。そしてゆっくり怒りがこみあげてきたのでした。はぁぁぁぁ?お前わけわからんこと言って説明なく謎のサインを強要してきて挙句クビだ?????なんだコイツ!さすがに頭来た!!と思いました。…そして同時に僕の悪知恵がこうささやきました。「あれ、クビってことは会社都合の退職ってことじゃん?てことは失業手当もすぐ出るし、一か月分の給料は出る…とかじゃなかったっけ。いつか辞めるやめるんならこれ得なんじゃね?」
なんてことを一瞬で考え、カッチーンと頭にきた直後にスっと頭も冴え、

「わかりました、クビっすね。じゃあ帰ります。」

と荷物をまとめて帰りました。確かに会社環境としてはかなり悪く、その会社で出世したってなんの得もないなので、いずれはやめるつもりでした。そう思うと少し予定が早まっただけだし別にいいや。その時はそう思っていました。そしてこれが4か月に渡る戦いが始まりなのでした。

実際にはクビと言われた僕とは逆に会社を辞められないケースのほうが多いと思います。
そんな方には最近は退職を手伝ってくれる下記リンクのようなサービスがありますので一度相談してみてもいいかもしれません。

会社を辞められずに困っている方

 

会社「クビなんて言ってないです、戻ってきてください」

クビと言われてしまっては仕方がない。まぁ、会社都合だしいいや、と頭では思いながら家路についたのですが、それでも焦燥感がハンパなかったです。どんな会社であれ、クビを言い渡されるのって結構ショックなんですね。とりあえずショックな部分は置いといてクビならクビなりのメリットを有効利用しない手はありません。友達の弟が弁護士をやっていたのでこれからどうすべきか聞くと、郵便局から内容証明を送ってまず不当解雇であることをうったえて、解雇予告金の支払い等を請求するべし、と聞き、ネットで調べつつも「本件は不当解雇にあたりますので解雇は無効ですが、そんなこと言われたらもう働きたくないです。クビというなら辞めますから解雇予告金を払ってください」という内容で内容証明を人生で初めて送りました。この内容証明というのがとてもめんどくさかったと記憶しています。細かなルールがあって、郵便局の人に聞いて何度も書き直して送りました。

そして数日後、会社から驚愕の返事がありました。その回答をざっくり言うならば…、

「解雇なんて誤解です、ここまで休んだ日数は有給休暇として処理するのですぐにでも戻ってきてください。労働条件で是正すべき点は是正したいと考えています。」

明らかにクビって言ったのに、もう来るなって言われたのに戻って来いだなんて一体どの口が言うのか。そもそも誤解なら電話一本でも掛けてこればよいだけの話でそれすらない。それは一体どうしたものかと友人の弟の弁護士に聞くと、「まぁ、そう来るだろうね」とのこと。え、何?知ってたの。
どうして会社がそんなことを言い出したかという部分を聞くと、そもそも会社は正当な理由なく従業員を解雇することできないので、僕の場合のように就業規則を理解しましたというサイン(これにそもそもどういう意味があったのか今でもわかりませんが)を拒んだからという理由でクビなんていうことは本来できないのです。できないので、解雇予告金を支払うから辞めてくれという方向の交渉を始めるか、会社としては解雇とは言っていないと言い切るか、この二つが一般的であるようでした。そして会社が選んだのは後者でした。
つまりは人格が破綻しているくらい短気な社長にクビを言い渡されて、その対抗策として僕が内容証明を送り、それよって社長に「クビは誤解です」と言わせたというのがここまでの結果だというのです。そんなこと言われたって明らかに僕にやめて欲しいと思っている人の元で働きたいなんてもう思いません。でもそれが社長、もしくは会社の狙いだったのでしょう。なんせ社長によるパワハラが日常的に横行しているような職場です。一度クビを言い渡された人間が職場でどんな扱いを受けるかなんて想像に難くありません。だから「戻って来い」と言ったところで僕が戻ってくるなんて社長ははじめから露ほども思っていないのでしょう。だからそんな返信を平気でしたのだろうと思いました。そうやって僕を退けようとしたのだ、と。
そして弁護士の彼は「で、ここからどうしたい?」と僕に聞きました。そして僕は言いました「このまま泣き寝入るのは嫌だ、爪痕の一つでも残したい」と。

 

爪痕を残したいと思うに至った会社の風景

ワンマン社長のいる中小企業というものはどこも同じなのかもしれませんが、事務所では何かトラブルがある度に怒号が飛び、事務員はミスをすると、営業は成績が悪いと罵倒されるというA社はそんな職場でした。当時は今ほどブラック企業というものが世間で騒がれることもなく、パワハラという言葉に関してもまだそこまで世間に浸透していなかったように思います。社長はそのA社を一代でそこそこ大きな商売ができるまでの会社に育て上げたそうです。その社長の手腕はもちろんすごいのかもしれませんが、だからと言って人が人をいじめていいわけではないはずです。そんないつ罵声が飛んでくるかわからないという職場の空気はいつも張り詰めていて、誰もかれもが不機嫌か沈んだ表情で仕事をし、ミスは人に擦り付け合うという悲しい状況が起こっていました。もちろん、そんな職場が嫌ならやめればいいという理屈もあるでしょう。ですが嫌ならやめればいい、と言えて、しかも実行できるのは若くて子供がいない人だけです。中でもシングルマザーで子供を育てている事務員さんなんかは、「もしも今の仕事を辞めてしまったら次正社員で仕事が見つかるかどうかだってわからない、だからどれだけ辛くとも子供のために仕事を辞めるわけにはいかない」と言っていたのを思い出します。そして社長は特にその人に強く当たっていました。彼女はどんなに酷く扱っても辞めることができないことを知っていたからです。こんな立場の弱い人たちに付け込んで私腹を肥やすような酷い人間が世の中にはいるんだ、とシンプルに驚きました。そしてその悪は悪には変わりなくとも裁かれることはないのです。逆に言えば善悪なんていう相対的な尺度の中では「裁かれないのだから悪ですらない」のかもしれませんが。

もともと僕にとっては会社環境や条件なんてどうでもよくて経歴書に貿易事務の経験があると書きたかったがために始めた仕事でした。それでもあまりにもひどい独裁政治を目の当たりにして「本当にこの横暴を野放しにしておいていいのか?」と思うようになっていました。

今から思えばどうせ辞めるのです。その職場環境が悪かろうがなんだろうが僕のこれからの人生には関係はありません。今の僕なら間違いなく言うでしょう。

「そんなもの放っておいてもっと自分の人生に有益なことをしたほうがいい」と。

ただ当時の僕はまだ若かったし、好奇心もありました。そして僕はクビを言い渡された身です。実際、傍若無人の社長に反撃できるのは僕のような立ち位置の人間しかいません。だったら爪痕くらい残して、元同僚たちの待遇が少しでも良くなればいい。その時僕はバカみたいに正義漢ぶってそう思いました。僕は小さい頃僕は正義のヒーローにとてもあこがれていて、時折そんな気持ちが顔を出して厄介なことに巻き込まれてしまうんですが、その時の僕も「自分のできる範囲で戦おう」と決めてしまうのでした。

反撃の仕方

社長が僕にクビだと言う→クビは不当だとこちらが返す→社長がクビは誤解だ戻ってきて欲しいと手紙を出す
相手はカードを切ったので次は僕のターンです。とは言えもうあんな横暴な会社で働きたくない、でもこのまま泣き寝入りするのは嫌だ、ではどうするか。
・不当解雇を訴える→×解雇の事実はないと会社から言われてしまい、解雇すると明言した証拠もないのでこれを実際に訴えることはもうできません(その事実があったという主張はできるしすべき、ではあるそうです)。
・パワハラや労働条件で労働基準監督署に入ってもらう→×賃金の未払いや、労働者に生命の危険が及ぶほどの事柄がない限り労働基準監督署は動かないそうです。また動いたとしてもその結果会社が傾く可能性もあり、残された従業員にとって良い選択肢とはではなさそうです。
・残業代が支払われていないことを訴える→この方法が唯一会社に反撃できる術でした。僕は会社のパソコンの起動とシャットダウンの履歴、メールのやり取りのバックアップを念のため保存してあったのでこれを軸に残業代の未払いを訴えることにしました。
もちろん弁護士のアドバイスありきですが、会社への返信は以下のようにしました。

退職勧奨をした覚えはないという返信は社長の言動と全く反しており遺憾に感じています。僕の職場復帰を望むなら、以下の条件と質問に答えてください。
・法的に有効では無い就業規則を提示した上にその規則を基に再契約をしない場合、私自身の自己都合による退社になるという退職勧奨の撤回。
・法律上有効で無い就業規則を提示した上に説明責任を果たさなかったことに対する謝罪。
・就業規則の見直し及び当該就業規則をいつまでに労働基準監督署に届け出るという具体的な期限の設定。
・別途郵送した未払い残業請求に対する全額の支払い。
・就業規則が無いにも関わらず、貴社独自の基準で給料を支払ってきた結果、未払いの残業代が存在するという事実を該当社員全員に周知すること。
・未払い残業代を設定した期限内に支払わない場合、違法な退職勧奨の件と併せて法的手続に移行する。

これを見てもわかりにくいかもしれませんが、結論から言えば未払いの残業代について争いますよ、というほぼ宣戦布告的な内容になっています。なぜなら内容のほとんどが叶うとは思っていないからです。そして法律的にも僕のこの請求の中で刃になりうるのは唯一未払いの残業代を支払わせるということだけ、ということでした。残業代未払いで労働基準監督署に駆け込むこともできたかもしれませんが、実際に労基が調査に入ってしまうと中小企業はほぼ傾くと聞いていたので、まだ会社で頑張っている元同僚たちを思うと選ぶわけにはいきません。結果人に迷惑をかけずに僕がなんらか「爪痕を残したい」のであれば結局会社から金を取る以外ありません。民事は基本お金でカタをつけるしかない、という結論になるのは常識だそうですが、その時は正直金なんかどうでもよくてこれ以上辛い思いをする人が減って、酷い環境の職場を改善してくれたらそれでよいと思っていました。ですが、実際に社長にそんなことを実行させる術はありません。そもそもの倫理観が欠如している相手ですが、金勘定にはシビアなはずです。確かに不当に従業員を扱った結果、無駄な費用がかかるのであるとわかれば、これから先は従業員の待遇を見直すかもしれません。つまり、「従業員に酷い扱いをするとお金がかかるのだ、ということを認識させる」これが僕に残せる爪痕のようでした。だから、「結局金を取る」しかないのです。そして若干気持ちの上で方向性にズレはあるのは理解しつつ、結局当初揉めた原因である不当解雇ではなく残業未払いという線で争うことにしました。

民事裁判と労働審判

未払いの残業代について争うと言っても実際どうすればいいのでしょう。民事裁判というものを起こせばよいのでしょうか。そもそも聞きかじったような知識しかなかったので労使関係の法律、民事裁判など色々な本で勉強しました。調べたり話を聞いているうちにわかったのですが、ある程度白黒はっきりさせたいのなら民事裁判が良いそうですが、民事裁判を起こすと解決までに短くても1年以上もかかるとのことでした。実際白黒つけたい気持ちは大きかったですが、現実問題としてそんなに時間がかかっていては貯金も底をついてしまうでしょうし、新しい仕事も見つけなければなりませんのでそこまでの時間を裁判にさくことはできません。しかも僕の場合残業未払いを証明する証拠はある程度保存してあると言っても、”残業していたという事実”を客観的に第三者に示すことができると言い切れるほど強い証拠を持っていないため、長引く可能性もあるというのが弁護士の見解でした。

そこで勧められたのは労働審判という制度でした。労働審判とは、

労働審判(ろうどうしんぱん)とは、日本の法制度の一つであって、職業裁判官である労働審判官と民間出身の労働審判員とで構成される労働審判委員会が、労働者使用者との間の民事紛争に関する解決案をあっせんして、当該紛争の解決を図る手続(労働審判手続)をいう(労働審判法1条)。また、この手続において労働審判委員会が発する裁判も、労働審判という。wikiより

できたら失業保険が出ている間にケリをつけたい。やりたいことは、「従業員を不当に扱うことがどれくらい会社にとって損失となるのか知ってもらう」ただそれだけ。そんな僕の事情とやりたいことに労働審判はマッチしているように思いました。会社には未払い分約100万円ほどの明細が送ってありますので、その金額が期日までに支払われなければ労働審判を申し立てることになっています。そして期日まで待った結果はと言えば、会社から「残業代は支払うが、こちら(会社)が算出した値段を支払う」という謎の返信と、でたらめな未払いの残業代の明細が添付されていました。適当に書いたとしか思えないその出退勤明細では未払いの残業代は40万円ほどと計算してありました。とはいえ期日までに支払いはありませんでしたので証拠を整理して、裁判所へ申し立てに行くことになりました。

 

 

裁判所へ申し立て

労働審判は弁護士の力を借りなくてもできると聞いていました。なので弁護士には助言だけもらうことにして、僕は一人で全てやってみることにしました。仮にこちらの要求が通らなくても、僕の目的は”爪痕を残すこと”だし、強いて言えば好奇心として会社と争うという経験をしてみたいと思っていましたので、爪痕さえ残せれば最悪結果はどうでもいい思っていました。そしてここまでのやり取りはすべて僕自身の名義で行っており弁護士の影は見えなかったと思うので、会社は僕が本当に裁判所に申し立てをなんかしないとタカをくくっていたフシもあります。もし僕が実際に労働審判を申し立てれば相手は日々忙しい中小企業ですからおそらく弁護士を使って対応してくると考えました。実際僕の未払いの残業代なんてたかだか100万程度。僕は友人の弟からアドバイスをもらったり、弁護士事務所の無料相談を利用していたのでお金はかかりませんでしたが、一般的に弁護士の相談料は一時間一万円、労働審判を丸ごとお願いするとして60~100万程度かかるとのことでしたので、僕への支払いがいくらになろうと少なくとも弁護士費用だけで60万円以上はかかるはずです。つまりこちらの要求がどうなろうが、労働審判の当日相手が弁護士を連れてきたら”僕の勝ち”、つまり爪痕は残せたということになるだろうと考えました。貴重な時間が奪われ、そのうえお金も使わされたとなれば中小企業にとっては十分戒めになる程度の痛手ではないかとその時は考えました。今から考えればそこそこ儲けていたその会社からすれば百万程度なんか大した金額じゃなかったのだろうと思います(めんどくさかったとは思いますが)。

そして僕は残業未払いを証明できる証拠を整理して裁判所に申し立てました。
そう書いてしまうと随分簡単そうに聞こえますが、正直その「証拠を整理」することが地味にそしてかなり大変でした。労働審判は迅速な解決を目的にしているため、第1回期日の時点で証拠が不十分であると事実自体がなかったこととして判断されてしまうこともあるそうです。だから証拠となりうるものはすべて集めて提出するように弁護士からはアドバイスを受けました。
具体的には未払いの残業代を算出した根拠になったパソコンのシャットダウン時間の記録、メール、携帯のメモ帳に残した出退勤時間のメモをすべて印刷し、時間の記録で欠けている部分は会社が払うと言ってきた残業代の明細に載っていた時間を使って未払いになっているすべての出勤日について根拠となる証拠を用意しました。地味ですがこの作業に結構時間がかかったのを覚えています。僕が持っている材料が法律上固い証拠にならないので、証拠を積み上げることでより真実味(僕は嘘はそもそもついていないのですが)を示さなくてはならないということでした。そのため過去の出勤時間全てに欠けている部分や、矛盾が無いようにチェックせねばならず、この作業に思いの外時間がかかりました。これならとっとと就職して普通に働いてたほうがよっぽどマシなのでは…という思いがよぎりましたが、会社の元同僚も会社のカレンダー出勤日を定めたカレンダーなど僕が集めきれなかった証拠を揃えてくれたりもしたので、今更後にも引けずもうただの意地で作業をしました。そして最終的にはA4紙で200枚くらいの書類を作り、裁判所に提出しました。

 

 

労働審判当日

申し立てから約一か月後、労働審判の第一回期日がきました。やはり緊張します。自分は正しいことをしているのだ、めんどくさくてもやらなくてはならないのだ、と思ってはいましたがその頃になると正直疲れてしまっていました。折れそうな心に鞭をうち、映画「パルプフィクション」でのサミュエル・L・ジャクソンとトラボルタを思い出して「役」になりきりました(この場合ギャングスタではありませんが)。スーツを来て、弁護士にでもなったつもりで堂々と裁判所に向かったのを覚えています。素人だからどうせ舐められるだろうし、審理の途中に嫌な思いをするかもしれない。なぜなら相手は十中八九弁護士を雇っているだろうから。でも相手が弁護士を雇ってさえいれば僕は役目を果たしたと言えるのだ。だから僕は裁判所へ向かって、それを確認するだけでいい。そうは思うものの、超怖いパワハラ社長に合うのは気が滅入りました。それでもなんとか勇気を奮いたたせて裁判所に向かい、指定された会議室のような部屋で相手を待ちました。やがて労働審判官が二人の労働審判員を連れて部屋に現れ、そのあと社長と弁護士団が部屋に入ってきました。

弁護士と名乗るスーツの男女は3人。おいおいこんなに連れてきちゃったよこの人!ビビりすぎワロタ、と逆の意味で唖然としました。てっきり舐められてると思っていましたがそれどころかビビられてる?これなら既に効果はあったのかもしれません。

多くの労働審判が1つのテーブルに関係者一同が会する形で行われ、原則として非公開で行われます。期日の時間としては、1時間半や2時間の枠で行われることが多く、3時間程度かかることもあるそうです。僕の場合もほぼこのテンプレートに沿った形でした。まずは双方の証拠の確認と事実関係の聞き取りが始まります。

ここで僕は驚きました。大人ってすごいですね。紛争とはこんなものなのかもしれませんが、社長は質問に対して嘘しか答えません。例えば僕の休日出勤に対しては「指示した覚えはない」と平然と言ったり、僕が請求した後にでたらめに作られたと思われる僕の退勤記録は以前から社長が独自に確認して作成していたものだと言い張ったりだとか(それが証拠と認められるのかよくわかりませんでしたが)、何もかも無茶苦茶です。挙句嘘をついているのは僕のほうだとまで言われました。そもそも会社が出してきた私の未払い分の残業代の計算がまるっきり嘘なのですから、そりゃ社長は嘘をつくしかないのかもしれませんが誠実さのかけらもないとはこのことだな、と思ったのをよく覚えています。

ただ、社長が嘘をついていても嘘を嘘と証明する証拠がなければ労働審判員は判断ができないのです。パソコンのシャットダウン記録では僕本人が必ず操作していたとは言えないだとか、僕が提示した証拠の中で弱いものが順番につつかれました。僕がメールを送った時間と会社が僕を退勤したと見なしている時間に乖離がある日や、休日出勤を指示していないという社長の嘘は元同僚がくれた会社カレンダーで証明できたようですが、それ以外の社長の嘘を僕は覆すことができませんでした。弁護士がいう僕に未払いの残業代があるということを客観的に第三者に示すことは難しいというのはこういうことだったのです。

社長の言うことは嘘八百なので第三者の耳にも矛盾点は多く聞こえたと思います。それでも、だからといって労働審判員は社長の言い分が完全に嘘だとは言えない、という口ぶりでした。同時に彼らは僕が嘘をついているという言い方もしませんでした。そして一通り聞き取りが済むと僕だけ外の部屋で待つように言われました。聞き取り中の発言で社長には本当に幻滅しました。一年と短い期間ではありますが、言われた通りに文句も言わず真面目に働いてきた社員に対して感謝してほしいなんて思うのはさすがにおこがましいとしても、平気で嘘をつく…。まぁ一応戦いなのだから、嘘をつくなら突き通す必要はあるとは思います。それでも当時の僕には結構ショックでした。同時に怒りもあったので顔に出さずにはいられたとは思いますが、なんだかやりきれない気持ちでいっぱいでした。

そんなことをグルグルと考えているうちに、社長たちが部屋から出てきて僕だけが部屋に呼ばれました。

「結論からいうと60万円でどうですか?という話になってます」

椅子に座るなり労働審判員はそう言いました。ちょっと待ってください、審判員さん。全然話についていけないです。

「どうですかとは?ええと、未払いの残業代として会社が60万円支払うということでしょうか」

「そういうことです」

「こちらの請求としては何一つ嘘偽りはなく、正直申し上げてあちらが言っていることはでたらめばかりなのに…その辺はどうなってるんですか?」

「こちら(労働審判員)としてはどちらの言い分も甲乙つけがたいということで、大体間を取ってということで…」

ハァ??間を取ってって何???会社が悪いことしてるのに、挙句社長の証言や証拠もデタラメなのに、200ページにわたる資料作りや僕の証言が評価としてそんなデタラメと同点ってことですか???いやそもそも間を取ってって何?

「その条件で飲んでもらえれば今日中に成立ということになって、お互いね、時間を取られずにすみますしね。」と労働審判員は続けます。

「ちょっと何言ってるかわからない」とフリーズする脳みその片隅で、損得勘定が同時に働きました。正直精神的に既に疲れていましたし、これ以上無職時期が長くなるのも避けたい、それにたとえ支払いが60万だとしても既にこちらの目的は果たしているので…アリなんじゃないか…。いや、まてよ。

「間を取るとかよくわからないですが80万ならいいですよ」

色々腑に落ちないけれど、そんな適当に決めるくらいならどうせ言い値なんだろうが!と思っている部分がとっさに口から出てしまいました。

「間、といいますか相手方の提案といいますか…」

「わかりました。では、80万円ならその提案飲みますよ」

なんだただの交渉なんじゃねーか、となんだかバカバカしくなって、感情が色々整理できていないままでしたが口が勝手にしゃべっていました。そしてざっくり上記のようなことを話すとまた僕は外の部屋で待つように言われ社長たちが入れ替わりに入っていきました。なんだよ、しっかり資料作らなきゃダメって色々なとこに書いてあったのに、会社側適当じゃん!と正直思いましたが、これが相手側もしっかり対策してきたという結果なのかもしれません。

そこからはもうシンプルでした。また個別に部屋に呼ばれ「じゃあ70万は?」と聞かれ「あー、じゃあ75万なら。これファイナルアンサーな」というやり取りを経て、会社にはざっくり75万円とその他諸費用を支払ってもらうことで調停は成立。あっさりと労働審判は終わり、僕と会社との争いには決着がつくことになりました。

そこからいついつまでに会社からお金が支払われますよ、という話やらなんやら色々説明があり、頑張って作った資料を紙袋に詰めて部屋をさっさとその場を去りました。なんだか頭がふわふわしていて”交渉”が始まってからのことはあまりはっきり覚えていません。ここまでの努力が無意味に感じられてしまって呆然としたのか、単純に気が抜けてしまったのか。気づくと裁判所の外の並木道をぼんやり歩いていました。ちょうど今のような季節で太陽は少し暖かく、風が冷たかったのを覚えています。

会社をクビ、と言われた瞬間から約4か月。手にしたのは75万円とすこし。元々目指していたことはすべてクリアして、正直お金も期待していたよりも手に入りました。実際4か月まともに働いたほうが収入は多かったでしょう。でも戦おう、と思った時の目標は達成しました。でも…なんなんでしょう…あの気持ちは。傷ついたとか、やりきれないとか、世の中こんなもんだ、とか真実はいつも一つじゃないじゃんコナン君とか、もうなんだか色々なことが頭の中でグルグルと回りつづけて今にも泣きだしそうになりながら駅までの道を歩きました。

後日、会社の元同僚に電話をするとタイムカードを先に押したらすぐに帰る(当たり前)、社長が怒鳴らなくなった、出張には手当がつくようになったなど会社は多少良い方向に変わったようでした。ですが、一番仲が良かった営業部の同僚が電話越しにもやたらよそよそしく感じました。そしてそれから彼は僕のからの電話にあまり出なくなったり、折り返しではなくメールで返事が来たりと段々と疎遠になっていきました。後々になって別の人から僕が会社と争ったということで一番仲が良かった彼が責められたようだ、という話を聞きました。社長か彼が何を言われたのかはわかりませんが、僕も労働審判の内容を内容を話してはいけないということが調停の条件に入っていたということもあってなかなか彼と腹を割って話そうというわけにもいかず、そのまま今では連絡すら取らない仲になってしまいました。

そのころからだいぶ経った今だから思います。結局何も得しなかったな、と。別に会社と争わなくてよかった、と。

誰かに感謝してほしかったわけじゃないし(いや、少しは喜んでもらえるかなとは思ってましたが)、おかしいことにはおかしいと声を上げるべき、と思って何かがしたかった。でももしあの後会社の環境がよくなっていたとしても、僕が行動したことで元同僚は結果として僕のことを良くは思ってはいないでしょう。例えばそもそも立場で言えば、会社と争った僕は、その会社の社員の人たちとは敵対関係になるのです。考えてみれば当たり前ですが、僕はまだ働いている人たちのためにも何かしたいと思いながら、同時に彼らに攻撃を仕掛けていたのです。誰一人当事者にならずに、ものごとを良く変えることができたならきっとよかったんでしょうが、そんなの今でもできる気がしません。

会社に立てついたのはもちろん自分の好奇心もあって、何か声をあげたら何かが変わるんじゃないか、そんな期待もあって始めたことでした。そしてそんな期待は紆余曲折を経て、他人ごとのような絶望に変わりました。「正しいことをしたければ偉くなれ、青島」と踊る大捜査線で和久さんが言っていたセリフを思い出します。

欧米とは違って日本では労働者の権利が守られる仕組みが実質ありません。現在では「コンプライアンスがー」叫ばれる世の中にはなってきましたが、そんなの大企業だけの話です。会社が労働者を不当に扱ってもある程度までなら罰せられられないならば、その「ある程度の範囲」でいつまでたっても労働者は虐げられるのでしょう。昨今ではベトナムからの研修生が不当にこき使われたなんて事件もありました。そんな事件が起こるたびに少しずつは変わっていくかもしれません。

それから数年後。事情があって引っ越す必要があり、その地で見つけた会社に入社し、そして一年の後辞めました。今回はまた違ったタイプのブラック企業で一言にブラック企業と言っても色々な形があるのだなぁ、と気づきました。最悪コンビニバイトか…と将来を覚悟したのはそこに入社して半年ほど経ってからでした。

まぁそこでの話はまた別のお話。

余談ですが、最近検索をするとA社が求人を出していました。また以前に逆戻りして離職率の高い職場であるのか、ただ単純に人が足りなくなったのか。僕にはもう知る由もありません。ただ今出ているA社の求人内容すら色々ぼかして書いてあるのを見てきっと「喉元過ぎれば熱さを忘れる」なんだろうな、と思わざるを得ませんでした。

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